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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)254号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大橋茹、同齋藤寿の上告趣意第一点について。

原審の事実認定は、原判決挙示の証拠を綜合すれば、これを肯認することができる。論旨の指摘するように、西田豊吉提出に係る盗難被害届記載の被害物件の数量と被告人の運搬したと認定された判示物件の数量との間に多少の齟齬があるとしても、また、右届書記載の被害物件保管の場所と、被告人が本件物件を運搬すべくトラックに積込をしたと認定された場所とが相違しているとしても、原審が綜合認定の資料とした証拠に照らしそれらの事情は必ずしも被告人の運搬した判示物件が福井人絹倉庫株式会社第二号倉庫の盗難被害品たることを認定する妨げとなるものではない。所論は畢境事実審である原審の裁量に属する事実の認定を非難するに帰着し、上告適法の理由とならない。

同第二点について。

原審が所論弁護人大橋茹申請にかかる証人樽井常広の尋問を却下しながら、第一審公判調書中の相被告人たる樽井常広の供述記載を事実認定の資料となしたことは、論旨の指摘するとおりである。しかし、記録によると、第一審公判においては、被告人は右樽井常広と共同被告人として審理を受けていたものであり、同人の公判廷における供述については反対尋問の機会は十分与えられていたものと認め得るのである。されば原審が前示の措置に出たとしてもこれを目して刑訴応急措置法一二条に違反するものということはできない。かかる見地は当裁判所の判例とするところであり、今なおこれを改変する必要を認めない。論旨は採用に値しない。

よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 斎藤悠輔)

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